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9月26日
小雨。芦屋の下山診療所を訪ねる、木曜は午後休診、一足違いで彼帰宅。電話で連絡、阪急芦屋で落合い、飯を食うことにしたが、彼の馴染みの店、潰れたり閉めたり、結局、新大阪駅、古い患者が開く魚料理屋。子供の地震によるPTSDがいわれるが、60半ばで遭った者の、後遺症もかなりある。下山は酒が切れなくなり、量は変らないらしいが、すぐ酔い、人恋しくなる。小学校1年からのつき合い、65年、その後ろ姿が痛々しい、ま、お互い様だが。


27日
曇のち小雨。9,17ショックで、時事雑文が書けない、ぼくは「拉致」はないの立場だった、そもそも北朝鮮についてまともに考えず、しばしば伝えられる「怖ろしい国」の何やかや眉唾ものとみなしていた。14歳まで、日本人が朝鮮半島からの移住者に何をして来たか、身近に知っている、べつに良心ぶるわけじゃない、あの過去は、ぼくにおいて過去じゃない。当時、植民地保有地は国際的に認められていた。ヨーロッパの旧宗主国が旧植民地に対し謝罪、賠償金を払ったかと、60歳以下、文字でしか大日本帝国の朝鮮支配を知らない者にいわれると、いい返したくなる。しかし、現実に拉致被害者の表情を眼にすれば、言葉を失う、この問題にふりまわされ、他の分野においても筆進まぬ。


28日
雨。急に寒くなった、2,30pm、TVタックル迎え。この番組、実質的に仕切っているのは阿川佐和子さん、文筆方面の活躍ぶりと相まち、著しい成長。たけし殿、あまりしゃべらないが、眼は確か、言語的反射能力抜群、目下、タップを練習、ふとももがパンパンに張っているそうだ。われはピアノを試みれば血圧上昇、タップは心臓に悪い、体を動かすとなるとラジオ体操。散歩。「ヒトケタ」書く。


29日
曇。秋に出る版を新しくした旧作、また文庫となる作品の「あとがき」。死児の齢を数えるというたとえはおかしいが、そんなような気分。pm3,00、上野文化会館へフルートとギターの演奏聴きに行き、帰り、戦争中の日用品収集の中田商店で、主人に教わる。このところ青魚と野菜のみ、かなり極端な塩断ち、茶断ち。夜、「ヒトケタ」書く。


30日
曇。銀行で各種支払い、午前ということもあるのだろうが、窓口に用のある者、すべて老人。時に歳を考える、精神状態が鬱か躁気味かよく判る。下高井戸へ買物、やや風邪気味。「鷹の城の亡霊」「シグマ最終指令」仰々しいタイトルの海外娯楽小説、テーマは、ナチスの犯罪なのだ。日本の戦争は何だったのか。


1日
曇、時に雨。台風近づく。風邪やや本格的。戦後3度目ということになる。風邪腹痛下痢便秘肩凝り腰痛頭痛まったく縁がなかった。近頃、少し腰がきしむ。今日も「あとがき」何にしろ印税が入ってありがたいにしろ、すべて20年以上前の作品、やはり情けない。



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