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5月6日
曇。1日、賽の河原に石積む如く、書き直して意味不明となり、加筆して抹消。食欲ナシ。渋谷から青山を散歩、大学時代の知人呼び出し寿司を食う。彼、5年前に妻と死別、気落ちしていたが、半年前再婚、臆面もなくのろける。15歳下。家へ招かれたが遠慮。銀座へ出て、しかし断酒の身、風月堂で草餅、とらやで夏用帽子、地下鉄、井の頭線で帰宅、西永福駅周辺、日々桑海の変、しきりに店が変り、閉めてしばらくはクリーニング屋。犬を連れたオバサンとしきりに行き合う、以前は男の子が連れていたが。めざしで飯、ストレッチ、眠れず娯楽本。


7日

晴。払い残した勘定、銀行で清算。銀行の雰囲気、確実に品格が落ちた。1,00pm、四谷のホテルで、イラクについてレクチュアを受ける。戦争じゃなく、米英軍の「侵略」とみなしていたが、この言葉もふさわしくない、「圧殺」か。北朝鮮の脅威を煽り、軍事体制強化、ならば、はっきり議論をするべきだ。これだけは、誰とやり合ったって、負けない。わが国が、「抑止力」を備えるなら、核ミサイル搭載の原子力潜水艦を保有するしかない。アメリカは絶対許さない。少なくとも「喜び組」とやらの妙な踊り、軍隊の行進映像繰返すのはやめろ。ホテルで打合せ3つ、以後、散歩、昭和25年、このすぐそばに住んでいた、当時、住いの隣が公園、といっても只の広っぱ、子供たち自由に遊んでいた、現在、汚いベンチ、貧弱な木々、筑山風、遊べない。ホテルで仮眠。


8日
曇。睡眠メチャクチャ。食事も同様、このところ、めざし、アボガド口にせず。2,00am、ホテルから戻り、2時間寝て、以後、雑本を読み、また眠り、起きて散歩。久しぶりにホテルで入浴、ヒゲも剃った、顔がピリピリしている。昼過ぎ小雨。ストレッチ後、また寝る。夕食は釘煮で茶漬け、烏滑鶏の酢とトマトジュース。8,00pm、何だか寒い、感染症関係の本読み散らし眠。青山墓地へ出かけ、顔を知らない父方の祖父の写真が、墓の前にある夢をみる、まことに立派な顔に見えたのが、眺めるうち、眼と鼻が凹んできて、「ああ、官宦だったのか」と奇妙な納得、つづいて吉永小百合様に頬っぺたをキスされる夢、きわめて貧しい街並みだった。


9日
曇。4,00am起。ゲラ手入れのうち、すべて書き直したくなり、ボールペン放置して、ぼんやり。6,30am、庭の雑草むしり取る、道具は用いず指で引き抜く。50年近い以前、禅寺で半年草むしりをしていたから、いちおう手慣れたもの。合間に素振り用木刀ゆっくり振る、すぐ息が切れて情けない。気持ばかり焦って、小説は書けない。1,00pm眠、3,00pm起。下高井戸、書店で「フロイト先生のうそ」、古書店で「軍事言論」「兵士の物語」。昭和ヒトケタ、何度も書きかけては挫折、金井美恵子さんのオハコを借りれば、「ヘトヘト」。なんとしてでも書く。講演会の依頼しきり、身のほど知らずながら引受けて、とにかく若い皆さんに、どう受取られようが、しゃべるのが、役目だろう。夜、手紙を書く、結局、徹夜。




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